2014年5月25日日曜日

初夏の読書  ・・褌子

  五月に読んだ本。
■クラウス・コルドン『ベルリン1945』
 大作であるが一気に読んだ。米英軍よりもいち早くベルリンを占領した下級ソ連兵の性暴力のすさまじさに驚く。ナチスドイツ軍の侵攻で2000万ものロシア人が犠牲になったが、スターリングラード攻防戦を勝ち抜いたソ連軍はロシアの大地からドイツ軍を追い払い、北ドイツの東プロイセンに突入する。貧しいロシア農民出身のソ連兵が裕福なドイツの農家に驚いて略奪をする様子などが興味深い。
 ポーランドやバルト三国にまで入植していたドイツ人は祖国へと避難する途中で170万人が犠牲になったといわれる。ヒットラーは米英軍の捕虜は比較的丁重にあつかい、ロシア人に対してはユダヤ人同様のホロコースト政策で臨んだ。あまりの苛烈なスラブ人絶滅政策に神経を冒されるドイツ軍指揮官もいたという。
 むかし読んだロシア系ドイツ人が書いた『スターリングラード攻防戦』もすさまじかった。人類史上最大の激戦。赤軍に包囲されたドイツ軍負傷兵が投降を禁止されて何万人と凍死していく様がこれでもかこれでもかと描写されている。人間というものはこういう殺しあいをいつまでつづけるのだろうか。
 いま読み始めたのがアントニー・ビーヴァー『ノルマンディー上陸作戦』
■大岡昇平『ながい旅』
 戦争末期に東海軍区で防空司令官だった岡田資中将の最期を描いている。
 日本本土の無差別爆撃をやったB29。撃墜されたB29搭乗員を処刑した罪で、岡田資は戦後、絞首刑になった。昭和の日本高級軍人にはめずらしく高潔な人物として『レイテ戦記』を書いた大岡昇平だが、岡田中将に敬意をこめて描いている。
■津村節子『紅梅』
 作家の吉村昭が昨年、癌で亡くなった。津村節子が吉村の妻として夫が舌癌から全身に転移して最期を遂げるまでを書いた。小説家夫婦というものの生活ぶりもリアルに描かれていて興味深い。
■吉村昭『殉国』
 15歳の沖縄の少年兵が鉄血勤皇隊員として沖縄本島に上陸した米軍と闘い、捕虜となるまでを生き残った比嘉義一という那覇のタクシードライバーから何日もかけてききとったままを書いている。のこぎりによる手足の切断。泥と血膿とウジ。洞窟に逃げ込んできた日本兵に強要されて母親による幼児の扼殺。手榴弾を支給されて一家全員の自決。これが戦争の実相。
■松本清張『半生の記』
 先月、吉野山の山桜を見物にいって短編『骨壺の風景』を読んだ。清張が43才で小説家として上京するまでの半生が知りたくなった。『半生の記』を読んで、ますます九州小倉の松本清張文学記念館に行きたくなった。
■松本清張『屈折回路』
 われわれが高校生の頃だが、北海道と九州で同時にポリオが大流行したことがあった。
 ある正体不明の細菌研究所の研究員が北海道の夕張や寿都にポリオを調査にいったあと自殺するところから物語ははじまる。
■松本清張『黒の様式』
短編『歯止め』『犯罪広告』それに中編『微笑の儀式』の三作が収録されている文庫本。 『微笑の儀式』は奈良の古寺巡礼にでた法医学の大家が、“古拙の笑い”ことアルカイックスマイルに心を奪われている青年彫刻家とであう話。三作とも甲乙つけがたい面白さ。いま読んでいるのが『十万分の一の偶然』
 

0 件のコメント:

コメントを投稿