2013年7月1日月曜日

因果はめぐる・・・褌子

   因果はめぐるである。
  ネット上ではテレビキャスターの辛坊治郎氏が話題を呼んでいる。
  辛坊氏らがヨットで太平洋横断に乗りだし、宮城県沖で船が浸水して自衛隊機に救助された事件である。荒天をおかしての  自衛隊機による決死的な救出だったようだ。問題は、辛坊氏が日ごろから読売新聞系のテレビで「自己責任論」を展開してきたので、こんどは税金をつかった救出費用を「自己責任」で弁償しなさいという議論がネット上に噴出しているのである。
  私が記憶に残っているのは、イラクで戦争孤児支援にあたっていた高遠さんという女性達が、イラクで人質になってしまい日本政府が救出して帰国したときに辛坊氏が「自己責任論」を展開して高遠さんたちに費用を弁済しろとテレビで追及したことだ。戦争孤児支援にがんばるほどの高遠さんという正義感の強い気丈な女性が、事前に身内から説得されたらしく、成田空港で頭を下げ続けて謝罪し続ける姿は痛々しかった。あれほど自己責任をテレビキャスターとして主張してきたからには、一千万~四千万円ともいわれる税金をつかっての負担を辛坊氏は払えという議論がネット上にとびかうのも無理はない。
  私は、こんどのヨットの太平洋横断計画がテレビでの出演を意図したものであったにせよ、無謀だったのかどうかはわからない。国民の生命、財産をまもるのが政府の仕事である以上、救出は当然であり救出費用の弁済などはする必要はないと思う。(三浦雄一郎氏がもし遭難していたら…とかいろんな事例が想定されるが)
  しかし、辛坊氏はかつて自己責任論で追及したことだけは高遠さんたちに謝罪する必要があるのではないだろうか。謝罪する必要はないと強弁するのであれば、言ってることとやってることがちがうときびしい批判が続くであろう。
 (辛坊氏が当時の石原都知事に単独インタビューして東京都民は福祉に頼りすぎだと元知事と意気投合していた放映場面を苦々しく思い出す)
  こんど、国会末に民主党の醜い右往左往であやうく成立しかけた生活保護「改正」案も、困窮している国民が生活保護に頼らないように水際で撃退し、増え続ける生活保護費を抑制しようという法案だった。最近、大阪で餓死した母子がみつかったり札幌でも病気の姉妹が生活苦で心中した事件があったが、困窮する国民の最後の命綱まで断ってしまうという冷酷無比な法案だった。こういうものがでてくる背景にあるのが「自己責任論」なのである。貧乏になるのも病気になるのも身体障害をもって生まれてくるのも自己責任だというのである。当時、小泉首相や竹中平蔵氏がもっとも強力に主張し、辛坊氏らマスコミ関係者がそのお先棒をかついで、自己責任という妙な嫌なことばがはやりだした。
当時の小泉内閣が「財政再建のためには国民は痛みにたえる必要がある」と喧伝し、社会保障費を毎年二千六百億円も削減するために生活保護受給などはできるだけ遠慮すべきだと自己責任論を展開していたから根は深いのである。
 多くのネット氏らも、あのときの印象が強烈だったので、こんどは最低でも一千万円はくだらないといわれる税金をつかった救出費用を辛坊氏は負担せよというのであるが、もし負担をしたらかえって「自己責任論」は肥大化するのではなかろうか。
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 話がすこし飛ぶが、だいたい、七年前のイラク戦争自体がイラクのフセインは大量破壊兵器をもっているとでっちあげてアメリカのブッシュ大統領が国連決議を無視して軍事介入をしたものである。9・11の首謀者をイラクが匿っていると無理矢理強弁したうえでの侵攻だった。
 イギリスのブレア首相につづいて小泉首相もアメリカのイラク介入を支持し、自民公明政権がイラク特措法を成立させてはじめて大規模の自衛隊海外派兵に踏み切った。大量破壊兵器など全く無いにもかかわらず数十万のイラク国民が犠牲になり、四千人ちかい米英の若者たちが戦死した。それどころかフセインの強権で抑えられていたスンニ派シーア派の抗争が、イラク戦争でいっきに激化し、いまだに悲惨な自爆テロ事件があとをたたない。
  「大英帝国の民族対立を利用しての植民地支配を脱してやっと独立を達成した発展途上の石油だけが資源の複雑きわまるイラクという国家」が、アメリカの軍事侵攻で民族対立再燃という地獄の釜がいっきょに開くことになるのではないか、という危惧が当時からあったが、事態はその通りになった。大量の米英軍の兵士の戦死でブッシュ大統領もブレア首相も退陣し、派兵したスペインでも政権交代が起きた。
  日本の自衛隊は日本国憲法九条が幸いして、戦闘地域には送られず、サマワという地域に駐屯してひとりの戦死者もださずに帰還できた。当時の指揮官のひとりが帰国後、日本の憲法に救われたと発言したことが印象深い。しかし、小泉元首相はイラク戦争を支持した不明を黙して語ってはいない。
  このアメリカ侵攻軍に従属しての自衛隊派遣で、中東諸国の親日感が一変したといわれている。ペシャワールで奮闘している中村哲医師たちもそのことをなんども日本のマスコミに寄稿して警鐘乱打してきた。昨年、北アフリカで起きた日揮の事件もその延長線上にあるのではないか。もし自衛隊派遣がなかったら高遠さんたちが反米ゲリラの人質になることがなかったかもしれない。うっかりイラク旅行にいってしまった幸田さんという青年が人質になり小泉首相に見殺しにされて頭部切断で殺されずに済んだかもしれない。
  軍事をもっては世界のもめ事は結局は解決しない、いっそう事態は複雑になり犠牲者の身内から報復にもえるテロリストがでてくるということを示している。

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