ちょっと前になるが、東京国立近代美術館(竹橋)に久し振りに出掛けた。大きなイベントはやっていなくて、所蔵展を中心の閑散とした館内。何と65歳以上は無料。この所蔵展がなかなかのもの。国立の施設は矢張り違う。教科書に見る明治以降の近現代の有名絵画が随分陳列されて、儲け物だった。
その中で意表を突かれたのは「戦争画」。戦争中に軍部の依頼で画家の有名どころが協力、戦意昂揚を目的に戦場を舞台にした大作を描いた。戦後これらは米軍の戦利品として押収された。随分後になって、アメリカのどこかの倉庫に埃まみれになっているのが発見され、日本へ長期貸与(無期限だろう)の形で里帰りした。その受け皿になったのが当美術館というのである。
いずれも2m四方くらいの大作が取り敢えず五枚ほど掲げられている。
中村 研一 「北九州上空 野辺軍曹の体当り B29ニ機撃墜/1938年」
大空にB29二機が半壊状態で煙を上げて墜落する様子。多分当時、大喝采された事件だったのだろう。むしろ叙情的の静けさが感じられ絵としてはよく描かれていると思った。
それから、藤田 嗣治 「血戦ガダルカナル」
これは日本軍が玉砕する寸前の死闘。銃剣を振りかざして日米の兵士達が血みどろの接近戦で息をのむ。激情が迸っている。
藤田は当時協力した画家達のリーダー格で自身率先して大作に挑んだという。ところが戦後、一転して戦争責任を問われた。まもなく再び渡仏して二度と日本には戻らなかった。向こうへ帰化したはずだ。我々が知っている藤田嗣治の絵は、細い線の輪郭で描かれた繊細な猫や女性像。その画風でフランス画壇で独自の地位を確立した。両者の落差たるや呆然とする思いだった。八月がやって来る。藤田は戦後の日本をどんな思いで眺めていたのだろうか。そして自身を。
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