津波に襲われた宮城県牡鹿半島のワカメ収穫ボランティアに参加した。

【おやじさんと記念写真。お化け蛸みたいなワカメの根っこ】
防水カッパ、ゴム長にゴム手、みやげの千葉の落花生をつめこんだ大きなリュック姿で新幹線で仙台着、石巻までのバスにのる。石巻駅まで石見君(佐渡高校時代の同級生で半年以上も牡鹿半島にきている)が迎えにきてくれた。
立川市民の石見君は立川からどんどんボランティアと支援物資を牡鹿半島に送りこみ、さらに牡鹿半島のワカメなどの海産物を立川の青空マーケットで売りさばいて支援金をつくるなど一匹狼の優秀な仕切り屋。自称「牡鹿半島を支援する会事務局長」である。彼は佐渡の漁村で育ったので、震災後いてもたってもいられず佐渡にとても似た牡鹿半島に単身、車でやってきた。車のなかやコンテナハウスで寝ていてヒゲぼうぼうだが、どこに行っても漁民に「局長!」と信頼されている。
石見局長の軽自動車で石巻の港をまわったが、冷凍工場が全滅なので日本有数の漁港だったとは思えないほど漁船も少ない。赤サビだらけの巨大なへこんだタンクが横倒しになったまま。道の両脇に津波に一階をぶち抜かれた民家がえんえんと並んでいる。ダンプも走ってない。「復興のツチ音」など聞こえてこない。政府は何をやっているのか…誰もがそういうと局長が話した。北上川河口を越えて、夕方、牡鹿半島小渕浜の民宿到着、この民宿だけが津波から助かった。山の上には桜が満開だが民宿の窓から見下ろすと海岸の近くに瓦礫が山になって積み上げられている。付近のワカメ工場も民家も全滅状態。
民宿で夕食。そばで食事していた女性は飛騨高山から二回目のボランティアに来たという、焼津の元教師だという男性ふたりが大きな布に激励の寄せ書きをしている。
翌朝、六時半頃、突然石見君が迎えに来た。朝飯がまだだというと浜で食えばよい、いますぐ仕事にいこうと車に乗せられ養殖ワカメ業者のおやじさんのところでおろされた。挨拶もなしに新品の防水カッパに着替えて作業開始。船で収穫したばかりの養殖ワカメが網にどっさり入ったままフォークリフトで作業場へ山のように運び込まれてくる。
十数人のおばさん達が根とメカブとワカメがついたままの茎とに切り分ける。ワカメがついたままの茎を九〇度の熱湯におじさん達が投げ込んでボイルする。茶色から瞬間的に緑変したワカメが海水をどんどん流し込んでいる水槽にコンベアで落ちてくる。私の初仕事はこのワカメを冷たい海水で冷やしながら棒で次の工程に送る仕事である。単純な仕事であるが立ちっぱなしなので腰がすぐ痛くなった。次の工程はワカメを三〇キロくらいずつ袋につめて二六%の塩水槽で攪拌するもので出し入れが大変な重労働。さらに塩漬けになったワカメをおばさん達が茎から丁寧にむしり取る工程がつづき、このむしり取られたワカメをさらに圧搾して水分をとばして、夕方には段ボールへつめて漁協へ出荷されるのである。
三月四月が養殖ワカメの収穫期、牡蠣棚が流されて復旧してないので、ワカメだけで一年の収入のほとんどをこの二ヶ月で稼ぐ。朝は四時から船で湾外に養殖ワカメのロープを引き上げにゆくのだそうだ。おやじさんの身内の男性は、これが辛くて絶対漁師になりたくないと思ったが、船も電動化され、さらにフォークリフトが入って嫁ももらったし漁師も悪くねえなあとやっと思うようになったら去年の津波で機械も工場も全部やられてしまった…といっていた。
文字通り朝飯前の仕事をすませて八時半頃から朝食になった。津波後につくった仮作業所であるが煮炊きができるようになっている。卵のぶっかけご飯がこんなにうまいとは。食後ゆっくりお茶を呑むのかと思ったら、もう全員が次の仕事にかかっている。昼は弁当が配られた。黙々食ってまた仕事。作業所わきでカモメをみながら叔父さん達と並んで立ち小便する。一キロくらい先の山の杉林まで津波がかけのぼった跡が残っている。ここに数十軒もの集落があったのか。おやじさんの小学3年の孫が学校から帰って仕事場に遊びにきた。
北海道教育大学釧路分校を三月に卒業したばかりの女性がボランティアに来ていて、自分の母親より年上くらいのおばさん達といっしょに一心不乱に手を動かしている。彼女はちかくのコンテナハウスに一〇日間も寝泊まりして、がんばりぬいて夕方、栃木の実家に帰っていった。
漁民は朝が早く夕方は四時半頃になると仕事終了である。おやじさんが軽トラで民宿まで送ってくれた。車の中で「仙台の高校にまで行っていた孫が帰っていて津波にやられた。もうひとりの孫もその前に交通事故で死んだ。青信号だったんだぜ。孫がひとりになってしまった…。若いときから働いて働いて五千万の家建てて、子供に身上渡したら全部流されてしまったんだ。いまは狭い架設住宅だもんなあ…」とつぶやいた。
津波で流された跡地に秋葉山権現という石碑だけがぽつりと残って建っている。
民宿に帰って風呂と夕飯。ビール呑んだらまだ7時なのにたちまち睡魔が襲ってきた。