■■■ 若い修行僧たちは、関東十八檀林で修行するが、その厳しいことといったらいやはや。その十八檀林はまず、下谷幡随院を振り出しに、・・・(えんえん十八寺の名前が続くが志ん生、順番を間違えても誰もわからない)・・・難行苦行の末、最後に芝増上寺にまでたどり着いて大僧正の位を与えられるのはたった数人。
そのころ、十八壇林四番の藤沢山遊行寺(律宗の名刹。いぜん国兼さんに案内してもらいました。小林さんの茂原山藻源寺でも別にかまわない)で、若僧たち1千人もが日夜修行していたが、大僧正の位のある住職が跡取りを誰にしたもんかと悩んでいた。そこで一計をはかる・・・。
「拙僧の跡目を出す相談をしたい。お盆すぎの20日にお集まり願いたい」と、修行僧を集める。残暑きびしいなか本堂を埋めた若い修行僧を一人ずつ脇に呼んで、「跡目はおまえかもしれないので”せがれ”にこれを・・」といって、金の小さな鈴を付け、同じように千人全員に付けてしまった。「今日は特別な日、酒、肴を許そう」。そのうえ、酌人に綺麗どころがずらり紺の浴衣で現れた。白い肌が透き通る浴衣を素裸の上に着ているだけ。立て膝で「大僧正様のお酒ですよ。おひとついかが」とお酌され「なんたること。これも修行か」と下を手で押さえていたが、住職様のお酒を両手で盃にうけたとたん『チリ~ン』 あちらでも『チリ~ン』 こちらでも『チリ~ン』 それが千人『チリ~ン、チリ~ン』と大本堂ぜんたいに鳴り響いた。
まるで秋の高原、鈴虫の大合唱のてい。国兼さん、ここで一句いきたいねえ。
嵐のようなチリンチリンに大僧正が「近頃の若いもんはまったく」と嘆いていると、一人の若僧が目を半眼に開いて座禅していて、そこだけが鈴の音がしないではないか。うむ彼こそワシの跡継ぎだわいと、別室で「鈴を見せてくれ」というとなんと鈴が無い。
彼いわく
「鈴は、と~に振り切りました!!!」
■■志ん生は高座で、「このような噺は、しっとりとした雰囲気の中、自分もそのような気分の時だけしか演らないねえ」と、言っていたそうだ。
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