「放射能は完全にブロックされている」「コントロール下にある」。IOC総会で、安倍首相は汚染水について豪語。首相の言葉はすなわち、国際公約になった。現地では今も1日400トンもの地下水が壊れた原子炉建屋に流れ込み、海に漏れている。原子力の第一人者小出裕章京大助教はどう見ているか。
■「首相は何を根拠にコントロールできていると言っているのか。福島原発は今、人類が初めて遭遇する困難に直面、想像を絶する状況が進行している。
■「汚染水の現状は予想できたこと。事故が起きた福島原発では溶けた炉心の核燃料を冷却する必要がある。水を入れれば核燃料に触れた水の汚染は避けられない。福島原発は水素爆発で原子炉建屋の屋根が吹き飛び、地震と津波で、施設のあちこちが壊れている。汚染水は必ず外部に漏れてくる。それが原子炉建屋やタービン建屋の地下、トレンチといった地下トンネルにたまり、あふれ出る。誰が見ても、当たり前のことが起こっている」
■政府の汚染水対策の柱は「凍土壁」と、汚染水から放射性物質を取り除く多核種除去装置「ALPS」の増設・改良。「ALPS」が稼働すれば状況は改善されるのですか。
「動かさないよりも動かした方がいい。しかし、汚染水問題の根本解決は困難。汚染水の濃度があまりに高いから。法令上の基準値は1リットル当たり30ベクレル以下。しかし、先日、福島原発の地上タンクから漏出した汚染水は1リットル8000万ベクレルと報道されている。許容濃度にするには、300万分の1以下に処理しなければならない。私は不可能だと思う。さらに、トリチウムは三重水素と呼ばれる水素ですから、水そのもので、ALPSで除去することはできない」
■凍土壁は効果ありますか。
「遮水壁は鉄とコンクリートで造るべきだ。耐久性があり、最低でも10~20年は持つ。しかし、造るのに時間もカネもかかる。待ったなしの状況を考えれば、急場しのぎの凍土壁も造った方がいい。ただ、凍土壁が冷却に失敗したら地下に巨大な穴が開く恐れがある上、何年維持できるのか分からない。最終的には、やはり、凍土壁の周囲を鉄とコンクリートの遮水壁で覆う必要がある」
■小出さんは最近、水を使った冷却をやめるべきと言っていますね。
「水を使い続ける限り、汚染水は増え続ける。今のような状況は何としても変えなくてはなりません。重要なことは冷やすこと。つまり、冷やすことさえできれば、手段は問わない。金属を使うことが考えられます。仮に(融点の低い)鉛などを炉心に送ることができれば、最初は熱で溶けて塊になるものの、塊が大きくなるにつれて次第に熱では溶けなくなる。その後は自然空冷という状態になる。ただ、これが確実に有効な対策かと問われると正直、分かりません。金属の専門家などを集めて知恵を絞るしかありません」
■福島原発はどうすれば廃炉できるのでしょうか。
「チェルノブイリ原発のように石棺しか方法はないと思います。ただ、事故から27年経った今、コンクリートのあちこちが壊れ始めている。福島は事故を起こした原子炉が4基もあり、石棺にするにしても、使用済み核燃料プールにある燃料棒は必ず取り出す必要がある。その燃料棒の取り出しに一体何年かかるのか…」
■簡易型タンクで急場をしのぐだけの東電の後手後手対応にも呆れます。
「現場は猛烈に放射線量が高く、一帯は放射能の沼のようになっている。貯水タンクを溶接型にしたり、漏出がないかどうかを24時間体制で監視すれば、確実に作業員の被曝線量が増える。つまり、作業を厳格にしようとすれば、その分、作業員の被曝線量が増えてしまう。だから、場当たり的な作業にならざるを得ないのだ」
「チェルノブイリでは、収束のために60万~80万人が作業に当たりました。27年経った今も、毎日数千人が作業しています。原子炉1基の事故でさえ、この状況です。福島は原子炉が4基もある。一体どのくらいの作業員が必要になるのか見当もつきません」
■それなのに安倍政権は原発を再稼働する気です。
「町の小さな工場でも毒物を流せば警察沙汰になり、倒産する。しかし、福島原発の事故では東電はいまだに誰も責任を問われていません。電力会社が事故を起こしても免責になることに国が“お墨付き”を与えたようなものです。だから、全国の電力会社が原発再稼働に走るのです」
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