逸徳さんはゴッホ展を混雑のなかで覗いている頃であろうか。
私はガラガラの映画館で佐藤純彌監督『桜田門外ノ変』をみた。
吉村昭の原作にくらべて全くの期待はずれ。
原作から頭のなかで描いていたものと全然違った。
吉村昭は桜田門外ノ変の参謀格だった関鉄之介の遺族から日記の提供を受けて、全国を逃走中の関がついに水戸藩によって捕縛されて斬罪になるまでをまるで本人になりきったかのように書き続けて大作を完成させた。
吉村昭は事件の評価とか感想は一切書かない。浅田次郎のように感動物語も書かない。ただどこまでもたんたんと書き綴るだけだが、これが読者の様々な想像を惹起するのである。
いっぽう、ここ何年もかけ中断したり折にふれ読み続けたりしているものに大仏次郎『天皇の世紀』(朝日文庫17巻)がある。
実に丹念に書き綴った幕末維新の記録で将来もこれ以上のものはでないだろうと言われている。当時の日記、手紙、書簡などを引用しながら、幕末の諸事件をえんえんと書いているのだが、吉村昭とちがって、大佛次郎は随所に一二行の短い感想を言うのである。これが当時の日本人の有り様を端的に語っていて実に面白い。
めんどうくさいので文語文の引用箇所はとばし読みしているが、毎晩、ふとんのなかで数ページづつ読みつないで、数年がかりでやっと六巻(義兵)までたどりついた。17巻(金城瓦解)まで読了するのに何年かかるだろうか。
そのあとは早乙女貢『会津士魂』などを考えている。たぶん中里介山『大菩薩峠』にたどりつくのは10年も先のことだろう。
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