まずもお師匠の句の印象をと思って書きはじめたが、はたと気が付いた。読んでいるようで、自分の心理状態をかたっているのではないか。鏡になっているのである。そう思ったらなんだか、考えさせられてしまった。 こわくてなかなかさらっと書けないのである。そういう意味で、心に残った句を。
・小春日や象は言はれたまま坐り ・・・・・ 密林の王者の象なのである。威厳と沈潜している巨大なエネルギー。それが、ただ黙っていうことを聞いている。もはやも彼の前にあるのは鉄格子のみ。ときに、アフリカの自由な大地を夢見ることもあろうに。 お前なあ、気にいらなかったらほえろ。かよわい人間なんか踏み潰していけ・・・・ それなのに小春日和の中でただ黙っていうことをきく。諦念だろうか。いやそんなことはどうでもいいのだろう。 優しい小春日和の日の中では、いうことを聞いてやるのもわるくない。 なあ象よ。お前の優しさがいい。すまぬ。 ちいさい人間だ。
・蓑虫の揺れて犍陀多(かんだた)の孤独 ・・・・犍陀多は芥川龍之介の「蜘蛛の糸 」の主人公だな。 うす闇色の空間に地獄の血の池から極楽へとのびた1本の蜘蛛の糸。そこにぶらさがったひとりの男犍陀多。 蓑虫からすぐに犍陀多につなげたところはすごい。作者の神経の鋭敏さを感じる。糸はいつ切れてもおかしくない。存在のあやうさと孤独。うーむ、飲まずにいられるか。
・冬の滝電流弱くながれをり ・・・・・ 心象風景の滝だろうなあ。深山の深い雪。万物は凍りついて、動くものはない。太いつららを従えて、ごうごうと滝が落ちる。まるで凍りついてたまるかというように滝が落ちる。それはひとつの強固な意志ではあるまいか。立ち止まらんぞ。死なないぞ。おれはここにいる。・・・・ 弱い電流とは言いえて妙。これが俳句だろうなあ
・粉雪やレーニン選集括られて ・・・・・ 粉雪の中にレーニン選集はくくられてすてられるんだ。青春への哀悼とみたが・・・ すてるのか・・・さみしい。 しかし、ずっと持ってはいけないなあ。そうしないと明日の朝の雪は止まらないぞ。・・・・しかし・・・すてるのか。さらば20世紀。
・雪激しポケットの中に繊き指 ・・・・ 繊き指がいい。ほそきゆびだな。ふと幸田文の随筆を思い出した・・・「・・ふとすれちがうおみなごの、みみのつけねのしろうして、みやこおうじにゆきふかく・・・」
彼女は美人を美人と書かない。「みみのつけねがしろい」のである。この表現にであって、しばらくは若い女の子の耳のつけねばかりみていたのだ・・・
・おでんの卵逃げ来年は小吉 ・・・・・ おでんの卵がにげて、かわりにおでんの鍋の中から分厚いステーキでも浮上していただければ、作者にとっても来年は大吉ではあるまいか。
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