2011年12月23日金曜日

年の瀬の珍本騒ぎ・・・・褌子

  猫跨ぎさんがいきなり閼伽桶などというサンスクリットをもちだすので、議論がどんどん高踏的になってしまった。庶民的な話題に転じたい。
 珍宝ではなく珍本のはなしである。
 岩波国語辞典の初版は1963年(昭和38年)に発行された。日本の「標準的国語辞典」をつくるという岩波書店辞典編集部の自負のもとに西尾実・岩淵悦太郎氏らが第一版の計画をはじめたのは昭和29年だというが、九年後に初版がでた。
 昭和38年、大学二年の私は出たばかりの岩波国語辞典の初版を買ったのである。(佐渡の中学一年のときに国語の引野先生が三省堂「明解国語辞典」を全員に買わせて、これをずっと愛用していたがぼろぼろになっていた)
 ところが買ってすぐ偶然にも岩波国語辞典初版で『こんなん』をひくと「困難」ではなく『困離』となっているのを発見してしまったのである。
 奇書でもなくありふれた国語辞典のありふれた誤植なので、誰にも語ったことはないが、日本の“標準的国語辞典”で『困離』を「こんなん」と読ませるのはいくらなんでも困難である。『困離』という珍語を発見するのも岩波の「広辞苑」だってむろん困難である。
  この『困離』に気づいた編集部は驚愕し、あわてて第二版がでたはず。第二版は確かめてないが「こんなん=困難。佐渡島では、「こんなん」をわざと困離と書く奇習がある」などとくだらんことは書いてないと思うが。いまは第七版がでているらしい。
  これが三省堂だったら「毎日三たび反省す」論語(学而)を社名にしているくらいだから、たった九年で国語辞典をだしたりしなかったのではないかと思うが出版界の事情は私にはわからない。
  この初版本は私が三〇代に勤務していた市原民主商工会の事務所においてあったのだが、事務所新築のときの移転で紛失したらしく、最近、訪問したときには見あたらなかった。
 この発言を読んで、年の瀬の古本屋街では初版本を探しだしたヒマじんが「あ、やっぱり。本当だ」とにんまりしているかもしれない(笑) 

0 件のコメント:

コメントを投稿