先日、久々に能を見てきた。国立能楽堂の定期公演で満席の盛況。「頼政」という地味な演目ながら堪能した。終幕、語り終えた亡霊のシテが舞台から橋掛かりを通ってゆっくり引き上げてゆき、そのあと、語りを聴いていた僧が同じようにゆっくりと退いてゆく。それを場内声もなく見送り、終演となる。この間合いがいい。カタルシスだ。能楽堂を後にする道すがら、気分がさっぱりと晴れ上がるのを感じた。
しばらくして、BS放送でアメリカの女性シンガー、ノラ・ジョーンズのショーを見た。大人の女性の雰囲気が実にいい。ちょっとセクシーな表情ながら、観客に媚びるわけでもなく、妙な笑いを誘うわけでもなく、淡々と歌う。引き込まれて一時間経ってしまった。奥行きがあって濃厚だ。勿論、西洋音楽の長い伝統の上に立っているのだろう。言うまでもなく本物の芸能だ。日本のpopsは、なんだかんだ言いながら、このコピーだからね。決してこれを越えることは出来ないのだろう。
ふと思ったが、いま日本で上手い大人の歌手ってだれだろう。思いつかない。目につくのはAKB48とかいう若手のアイドル集団か。奥行きと濃厚さなど期待する方が無理というものだが、知らぬうちに、怖ろしく幼稚な世界になってしまっている。日本の文化の状況を現しているのではないかと思えてくる。
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