2012年3月30日金曜日

読書感想文・清水宏『出発』・・・・褌子

  仁ちゃんから送っていただいた清水宏『出発』(元就出版社)をいっきに読んだ。文句なしに面白い。
   巻末の著者プロフィールによれば清水氏は北大農学部卒で1941年生まれ。いま70才だから、自伝的小説である『出発』を最近書いたのだとすると、半世紀ちかく前の青春時代の疾風怒濤をまるで昨日のことのように描き出す若々しい筆力に驚く。
  北大時代はマルクスやレーニンをふりまわすような浮ついた学生運動に飽きたらずセツルメント活動に熱中したようだ。
  恐ろしく真面目で正直、自省的な人だ。なんでも五感で観たり聴いたり自分でしっかり掴んだものだけを信用する人だ。この強靱な粘着性で農学という実証的な学問をやったら大きな業績をあげただろうにと、読みながらつい余計なことを考えた。
  しかし清水氏は全くちがう生き方を選んだのだ。
  中卒だといつわって東京都の屎尿処理の仕事にとびこむところが実に迫力満点。いっぽう同窓の親友との対話のなかでも父も兄も東大卒とか、学歴に関する話が何度もでてくるのが気になった。セックスにまつわる話も多くすこし辟易もした。
  東京都民の膨大な屎尿が東京湾外の外洋に投棄されているとはきいたことがあったが当時はバキュームカーで集めてから、ハシケに乗せて河を下るまえにこんなふうに処理されていたのか。猛烈な臭気のなか屎尿に混入する異物の処理場面が何ともリアルで衝撃的。体験したものだけが書ける実に貴重なルポルタージュでもある。
  都清掃作業員から私立中学教師、塾経営などを経て、いまは郷里長崎県島原で市議会議員をしているという。『出発』で自らの青年期を活写した氏はこれからどんな自分史を書き綴って発表していくのか次巻が待たれる思いである。

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