寒いがやはり立春を過ぎると、空の色も空気もなにかちがうと感じた。
・「人身事故」に鉄の匂ひや雪催
ほんとうに雪催に救われた。
鉄の匂い、血の匂いまでしてくる。
人身事故とのアナウンスに誰も何にも感じなくなった電車内。
こんなとき、「幸福な家庭はどこも似ているが、不幸な家庭は一軒一軒みなちがう」というトルストイの言葉が頭に浮かぶ。
・歴史画のなかの未来図花八つ手
歴史画のなかの未来図とはどういう図か知らないが、花八つ出が一句をひきたてた。花八つ出、なんとなく艶っぽい季語だ。
・根昆布のほのかに甘き寒夜かな
準特選。暖かい昆布茶すすれば何もゆうことなし
・パンに蜜拡げ大寒の底にゐる
特選。寒さ。底。パン。蜜。葡萄酒もあるにちがいない
・つけつけと女もの言ふ冬の浜
甲高い早口の漁師の女房か。冬の潮風にのってうるさい声が遠くまできこえてくる。
不思議、浜の景がみえてくる。単刀直入の俳句の世界がこころよい。和歌だとこういう情景をこんなふうにはいえない。
・開闢以来宇宙膨張餅を焼く
宇宙膨張はハッブルが1929年(世界恐慌の年)に発見したが、なんとその膨張が加速していることが証明されたのはつい最近。宇宙の加速膨張がどんどんすすめば将来、宇宙は引き裂かれることになる。われらの住まう宇宙はじつに大変なことになっている。
・・・などと思い悩んでもしょうがない。のんびり餅を焼いていると、プーッと餅が加速膨張し、爆発しビッククランチ。旨そうだ
・荒星のひとつも入れてドライ・ジン
荒星をなんと読むのか。
久しぶりに「逆引き広辞苑」で星が下に来る言葉を探しまわったがわからない。
・強霜や流され来たる鉄塊に
つよしも、と読むんだね。木塊が沈み鉄塊が流される? いや、川面を流れてきたい霜の薄い氷塊が鉄塊にぶつかったんだと解した
・さみしさとさびしさは違ふと海鼠
さみしさでもさびしさでも大差なかろうが、がぜん海鼠をもってきて物語性がでてきた
暗い海のなかでもの言わぬ海鼠はさみしいのか、さびしいのか。海鼠は冬の季語なんだね
・寒雷や胸中深く折れしもの
暗雲垂れ籠め家のなかは暗い
冬の雷が鬱々とした胸中に鳴る。神はいるのかいないのか。「光を。もっと光を」と苦悩するドストエフスキーのこめかみに突如稲妻。
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