2012年2月3日金曜日

ある青年との対話「宗教と政治」・・・褌子

   うつ病に悩んで長いこと休職しているM君という30代の青年から手紙をもらった。以下は私の返事である。
   
M君のお手紙拝見しました。
   レーニンとロシア文学の巨匠達―――非常に興味のあるテーマです。
   山のように関連文献がでていそうですが、そういうものは無視して今後、ときどきこのテーマでまったくの素人論議ですが思うところを書いてみたいと思います。
  レーニンがドストエフスキーをどのように批判したのか私はあまり知りませんが、鍵は宗教だとおもいます。キエフ公国のウラジミールが国教化したロシア正教の歴史と関係があると思います。
  ロシアツアーリズムの官僚体制を批判したゴーリキーの『外套』『鼻』そしてツルゲーネフ『ルージン』、トルストイ、ドストエフスキーの諸作品(ドストエフスキーはわたしは残念ながら「カラマーゾフの兄弟」以外は読んでいませんが)、さらにゴーリキーの『母』へと続くとまさにロシアの民主主義から社会主義思想への発展の歴史となっていますね。
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  しかし、人類の進歩と発展の偉大な思想をうけついだはずのロシア革命が74年であまりに惨めな破綻をしたのはなぜか。   レーニンが偉大な革命家であっても理論上の重大な誤りもおかし、そのことがスターリンに連なるソ連体制に暗い影をおとし、ついには崩壊に至ったことも、今はきちんと解明されていますので、そのことも勉強してみたいとちょうど思っていたところでした。
  (M君が感激したという俳優座があの私にとっては難解だった『カラマーゾフの兄弟』をどんなふうに演劇化したのか興味があるところですが残念ながら観に行けそうにもありません)。
 ロシア資本主義勃興期、近代の人間の難問と苦悩を一身に担った大いなる思索者ドストエフスキーをいちばん読みこんだ日本の映画監督は黒沢明で『白痴』が有名です。
  M君はエイゼンシュタイン監督の『戦艦ポチョムキン』をご覧になったことがありますか。
  この映画に当時のロシア正教がロシア皇帝にとって最大の同盟者であったことをしめす象徴的な場面があります。ウジ虫がわいた肉片を食わされるなど虐げられぱなしの水兵(労働者や農民層の出身)たちがついに戦艦内で反乱をおこして、ロシア皇帝にだけ忠誠を誓う貴族出身の艦長たち将校たちに刃向かう場面です。
  追いつめられた艦長たちの後ろからロシア正教の聖職者が十字架をもってあらわれ、反乱水兵たちを「神に逆らうのか」とののしるのです。
  まさしく当時、ロシア近代化の阻害者としてのロシア正教会だったのです。
  ドストエフスキーもトルストイも人間解放における神の問題について苦悩し、これをバネに呻吟しながらたくさんの作品を書いたのだといわれています。
  しかし、ロシア革命後、ソ連共産党は宗教の負の面だけをみて、はげしくロシア正教会を弾圧しました。
  ソ連共産党の最後のゴルバチョフ書記長はそのことを謝罪し、ソ連崩壊後、ロシア正教会は新たな装いで復活しています。
  民衆のこころのよりどころとなる宗教心までを政治が弾圧するのは全くまちがっています。(信教の自由は思想信条の自由とともに基本的人権のいちばんの基礎ですから)
  いま住んでいる地上から戦争や差別、貧困を一掃する目的で、神を信じるものも信じないものも協力協同することは素晴らしいことだとおもいます。
  天国の問題については世界観がちがっても、さし迫った平和や暮らしなど今生きている地上の切実な問題で解決のために団結しようということです。
  またこの問題でM君とおおいに議論し勉強しあいたいとおもいます。お手紙をお待ちしています。

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